炎と木が記憶する──八重泉の原風景

炎と木が記憶する──八重泉の原風景

70周年という節目に、八重泉酒造は「時間」と正面から向き合う企画を立ち上げた。
監修に迎えたのは、ウイスキー文化研究所代表の土屋守氏。 まずは国産の栗樽(クリ樽)を選び、新たな酒造りのプロジェクトが始動した。
数年後の解禁を見据え、新たな原酒が今、静かに時を重ねている。

本企画にあたり、石垣島の植生を巡るフィールドワークも実施した。
ヤラブ、フクギ、オキナワウラジロガシ、ガジュマル……。
島に自生する木々の可能性を探り、地元の「うえざと木工」を訪ね、この島ならではの「木の文化」にも触れた。

こうした探求の旅は、やがて「石垣島産ウイスキー」という新たなプロジェクトの本格始動へと繋がっていく──。

未来への種蒔きが始まった今、あらためて自分たちの足元を見つめ直す。創業家の意外なルーツ、世界でも類を見ない「直火釜」、そして石垣島でいち早く取り組んだ「樽貯蔵」。八重泉の味わいの骨格を成すこれらは、効率化とは対極にある、先人たちの情熱と創意工夫の結晶だった。

何を受け継ぎ、何を磨き、何を次へ手渡そうとしているのか。二人の対話から、その芯が見えてくる。

1955年、偶然が蔵を生んだ

土屋守氏(以下、土屋): 八重泉さんの創業は1955年。70周年を迎えられましたが、そもそも座喜味家は、最初からお酒造りをされていたわけではないそうですね。

座喜味盛行氏(以下、座喜味): ええ。もともとは曽祖母が、戦後すぐに「お菓子屋さんをやろう」と思い立ったのが始まりなんです。彼女は台湾の言葉を読み書きできなかったのですが、石垣に住む台湾の方に「水飴が欲しい」と紙に書いてもらって。仕入れた水飴を加工して商売を始めました。

土屋: 戦後間もない混乱期に、台湾から水飴を。すごいバイタリティーですね。

座喜味: その後、祖父の盛光(せいこう)が、ビジネスの中心地へ移転しようと購入した建物が、たまたま廃業した酒屋だったんです。そこに設備が残っていた。「餅も酒も、元は同じ米からできている。」そう考えた祖父が、酒造免許を取って始めたのが八重泉のスタートです。

世界的にも稀な「直火釜」が作るボディ

土屋: 僕は世界中の蒸留所を見てきたけど、泡盛に地釜(直火釜)が残っていること自体、当時は知らなかったんです。で、石垣に来て、いの一番に八重泉に来た。本当に驚きました。こんな蒸留機、世界中探してもない。銅製の釜で直火で焚く、すごいよね。あれは、お祖父様が?

座喜味: はい。祖父は手先がとても器用な人で。直火釜はすべて、祖父が自分の手で改良しながら作り上げたものです。銅釜の厚み、バーナーの角度、火の当て方……すべてに独自のこだわりがありました。今でもメンテナンスは、自分たちで行っています。

土屋: 通常、泡盛の蒸留はステンレス製の横型蒸留機や減圧蒸留が主流です。効率もいいし、品質も安定する。でも、八重泉さんの「古酒八重泉」を飲むと、明らかに違うんです。ボディの厚みというか、リッチさが圧倒的。これはやはり、あの銅釜と直火の効果でしょうね。直火ならではの「焦げ感」というか、クッキングされた香ばしさと、銅がもたらす化学変化。それらが複雑に絡み合って、この深い味わいを作っている。

座喜味: 祖父がなぜ銅にこだわったのか、今となっては聞くこともできませんが、やはり「直火」には特別な魅力があるんだと思います。私たちは今も、樽に入れる原酒は、この地釜(直火釜)で蒸留したものを使っています。

土屋:地釜(直火釜)はブレも出るけど、そこに“手の味”が乗る。横型の常圧(蒸留)は酒質が安定する。一方で、地釜(直火釜)はベテランじゃないと難しい。

座喜味: やる人によって差が出ます。僕も若い時はやってましたよ。

石垣島のパイオニアとしての「樽貯蔵」

土屋: 「樽」についても、八重泉さんは石垣島でかなり早い段階から取り組まれていましたよね。

座喜味: もう50年以上になると思います。先代である父の時代から始めました。当時はどうしても色の問題があるので。透明なお酒を入れて、ある程度色を落とさないといけない。その問題と向き合いながら、「樽貯蔵した泡盛」をやっていました。石垣では一番最初だったと思います。アメリカンオークやフレンチオークの中古樽を輸入して、試行錯誤しながらやっていました。「八重泉=樽のお酒」というイメージを持ってくださる方が多いのも、この頃からの積み重ねがあるからだと思います。

土屋: ウイスキーの世界では、味の決定要因の多くを「樽」が占めると言われます。直火釜で作られた力強いボディを持つ八重泉の原酒だからこそ、樽の成分に負けず、長い時間をかけて互いの良さを引き出し合えるのでしょう。

島の米と木で描く、未踏のテロワールへ続きます。

写真:東里 明斗、株式会社Tanjun(一部アーカイブ素材を含む)
現地リサーチ・コーディネート:東里 明斗
撮影協力:八重泉酒造
取材・文:株式会社Tanjun
企画・プロデュース:株式会社Tanjun

八重泉30度600ml 70周年記念ラベル

八重泉30度600ml 70周年記念ラベル